コロナ禍は経済活動へ多大な影響を及ぼしている。世界の主要都市のロックダウン(都市封鎖)、日本では緊急事態宣言により、人々の行動は大きく制限された。そのような中、需要が高まったのがオンラインビジネスである。アラベスクS-Rayの産業分類では「インターネット販売」に分類される企業だ。今回は日本でも人気のあるヨガ用の衣類を中心に販売する「ルルレモン」を取り上げてESGを分析してみたい。
ルルレモン・アスレティカ(Lululemon Athletica Inc.)は行動自粛と在宅勤務の広がりによって自宅などの小さなスペースでも行えるヨガ人口が増えたことで、コロナ禍において増収を続けている。2022年1月期の第2四半期(2021年5~7月期)決算で売上高が14億5千万ドルに達し、今年度上期(21年2~7月期)の売上高はすでに前年度通期の6割の水準にある。同社の株価も年初から20%以上上昇している(1月4日356.40ドル→10月26日432.73ドル)。それでは同社のESGスコアを同期間でみてみたい。
この表のようにルルレモンのESGスコアはサブスコアも含めて10%以上の下落を示している。業績が良く、株価も好調に推移する中、どのような要因がESGスコアを押し下げたのであろうか。特に大きな下落を示したガバナンスのサブスコアで、ガバナンスの詳細項目の一つであるフォレンジック会計(収益のクオリティを評価)のスコアが26.21と低いスコアとなった。これは同社が2020年7月にエクササイズ器具のスタートアップ「Mirror」を買収したため、のれん代がこの1年で大幅に増加したことが要因だ。
ルルレモンは2018年に最高経営責任者(CEO)の女性従業員に対する不適切な行為が発覚し、退任したニュースがあったが、現在はこの影響はみられない。同CEO退任後のコーポレートガバナンス体制は改善している。
次に環境サブスコアをみていきたい。同社はサイエンス・ベースド・ターゲット・イニシアティブ(SBTi)から温室効果ガス(GHG)削減目標の承認を受けている。また、環境の詳細項目である水使用や廃棄物においても、取り組むべき目標を公表している。
しかし、GHG排出量の開示がないのだ。これまでも開示がなかったことから、評価としては変わらないとも考えられるが、気候変動に関わる世の中の流れは、GHG排出量の開示が必須条件になりつつある。同社の競合企業でもGHG排出量を開示する企業が増えてきている。そのため、S-Rayのスコアでは、非開示としている同社のスコアが相対的に下がってしまうのである。人々のライフスタイルに直結する企業である同社には、ぜひGHG排出用の開示を進めて頂きたい。
社会のサブスコアはどうであろうか。3つのサブスコアの中では最も下落率が抑制されている。しかし、今年3月に、同社の委託先であるバングラデシュの複数の工場において、従業員の安全を確保する行動規範が示されておらず、最低賃金の支払いも守られてないことがニュースとして大きく取り上げられた。このようなサプライチェーンの労働を搾取し、人権を侵害することが大きくスコアに影響した。社会の詳細項目の労働と人権のスコアは年初からそれぞれ17%、13%下落している。
コロナ禍で業績好調なルルレモンだが、ESG課題については取り組むべきことがはっきりしている。ガバナンスののれん代は、買収した事業資産の効率的な収益化が期待される。環境では、GHG排出量の開示を含めた、同社の環境への取り組みの詳細な情報開示の早急な対応が必要である。社会では、サプライチェーンをしっかりと点検することが重要であろう。人権デューデリジェンスを採り入れて対応することが望まれる。