独ESG評価会社アラベスクS-Rayは2021年12月、世界の企業のESGデータを収集・開示するプラットフォームである「ESGブック」を立ち上げた。22年3月には非上場企業がプラットフォーム上で情報を入力して開示できるようにした。
ESGブックはESGに関する各種の情報開示基準を網羅している。ESGブックの機能を本寄稿で全て紹介することは難しいので、今回はアクセスの多い企業のダッシュボードの概要を紹介する。具体例として米アップル社を取り上げる。
(図)アップル社のダッシュボード
(出所) ESGブック https://www.esgbook.com/
ダッシュボード上部では企業のS-Rayのスコア状況(無料登録の場合は3カ月前のスコア)を確認することができる。スコアは「ESGスコア」とそのサブスコア(環境、社会、ガバナンス)、そして国連グローバル・コンパクト(GC)の原則に基づいて企業の行動規範を評価して算出する「GCスコア」とそのサブスコア(環境、人権、労働、腐敗防止)だ。
各スコアの過去12カ月のトレンドと、ESGスコアのサブスコアについてはそれぞれのウェイト(比率)を表示している。図のアップル社の場合、アップルの属するセクターでは、サブスコアのウェイトは、環境が34.4%、社会が24.0%、ガバナンスが41.6%と、ガバナンスが最も高いウェイトとなっている。
次に中段右部分の気温スコア(Temperature Score)をみてみたい。これは企業の現在の温室効果ガス排出量(スコープ1と2)と売上高により炭素強度を算出し、この企業ごとの炭素強度を産業ごとの「参照値」と比較する。参照値は電力や輸送など産業ごとの排出量見通しを、産業ごとの付加価値(GDP)の予測で割り、50年まで出す。
企業の気温スコアは、現在の炭素強度が50年まで変わらないと仮定して参照値と比較し、30年時点と50年時点でそれぞれ何度にあたるかを示している。アップル社の場合はいずれの時点も1.5℃となっており、同社の炭素強度は抑制されていると考えられる。
中段左部分のディスクロージャーは、現在ESGブックにアップロードされているフレームワークごとのデータを確認することができる。「Explore all Disclosure」をクリックするとフレームワークがリストアップされる。
最後に下部の事業関与である。企業が懸念される事業に関与しているかを示している。懸念される事業活動はアルコールやたばこなど13種類示されている。アップル社の場合はいずれの事業にも関与していないため、チェックされていない。
現在、ESGブック上では世界の約9000社のダッシュボードを確認することができる。本日は企業のダッシュボードの概要について紹介した。今後、折を見てダッシュボードの詳しい機能やダッシュボード以外の機能についても紹介していきたい。
雨宮 寛(あめみや・ひろし)
アラベスクS-Ray社日本支店代表。アラベスク・グループの日本事業の責任者。アラベスク以前は外資系金融機関で運用商品の開発に従事。CFA協会認定証券アナリスト。一般社団法人日本民間公益活動連携機構アドバイザー、明治大学公共政策大学院兼任講師。NPO法人ハンズオン東京副代表理事。ハーバード大学ケネディ行政大学院(MPA)、コロンビア大学経営大学院(MBA)。