【日経QUICKニュース(NQN)】金融情報会社のQUICKと日本取引所グループ(JPX、8697)は5日、都内でESG(環境・社会・企業統治)に関する「ESG情報開示・新時代 企業と投資家に求められるアクション」と題したセミナーを開いた。JPXの清田瞭グループ最高経営責任者(CEO)は基調講演で、企業価値の向上に向けて、ESGをはじめとするサステナビリティー(持続可能性)情報を「リスクとしてだけではなく、収益機会として捉えて能動的に対応することの重要性が高まっている」と語った。
JPXは投資家と企業の対話を促すため、上場企業に対しサステナビリティに関する情報開示の質と量を充実させることを求めている。清田氏は企業活動を支える人材について「取締役会だけでなく管理職などの中核的な人材で、女性や外国人、中途採用者などの多様性がどれだけ確保されているかについても(開示を)求めている」と述べた。
■金融庁の池田氏、「企業がリスクや機会を探索する試み」
また同セミナーの基調講演に登壇した金融庁の池田賢志チーフ・サステナブルファイナンス・オフィサーは企業がESGに取り組むことは「各企業がそれぞれのリスクや機会を探索する試み」と述べた。
サステナビリティー(持続可能性)情報は開示基準が複数並ぶ。国際会計基準の策定を担うIFRS財団がグローバルで統一的な基準作りを目指し、2021年に設立した国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は22年末までに気候関連に関する情報開示を最終化させていく予定だ。米証券取引委員会(SEC)や欧州連合(EU)も基準を22年末にかけて策定していくなかで、池田氏は「22年後半は(基準を見極めるうえで)重要なタイミングになる」と指摘した。
企業に対しては、ESGに「自社の企業価値を高める視点で自分事として取り組むことが重要」との見方を示した。「開示フレームワークも、企業価値の向上につながるよう策定する」と話した。
■日立の増田氏、「企業は価値創出ストーリーの説明を」
日立製作所の増田典生サステナビリティ推進本部・主管は「これからのESGへの取り組みと情報開示に求められること 開示の先に何があるのか」と題するパネルディスカッションに参加。サステナビリティー(持続可能性)情報の開示にあたり、日本企業は「自社の長期的な価値創出ストーリーを据えて説明すべきだ」と語った。
サステナビリティー情報を開示する際、企業はコンプライ・オア・エクスプレイン(順守か説明)の形式を採る。増田氏は「日本企業は順守、欧州企業は説明を選択する傾向が強い」と指摘したうえで、日本企業は投資家の理解を得られるような「自社の長期的な価値創出ストーリーを据えて説明すべきだ」と話した。
ESG情報の開示の質を高めるには「どのような企業活動であっても、社会や環境へは必ず負のインパクト・負荷をかけるが、負のインパクトも対策と共に開示することが重要」との見方を示した。
■ニッセイAMの井口氏、「企業価値向上とのつながり重要」
パネルディスカッションにはニッセイアセットマネジメントの井口譲二チーフ・コーポレート・ガバナンス・オフィサーも参加した。ESGなど非財務情報の開示について「企業価値の向上とのつながりがあるかどうかが重要だ」と語った。
非財務情報の開示にあたって、企業は自社の企業価値に関わる「機会とリスクを認識して経営戦略を立てる必要がある」との見解を示した。投資家は「企業が開示したESG情報だけでなく、企業の(内部の)体制についても議論し、(企業価値向上の)取り組みに磨きをかけることが重要だ」と述べた。
井口氏はサステナブルファイナンスについて「主役はあくまで(資金を調達する)企業で、投資家の役割はこうした企業を資金面でサポートすることだ」と述べた。投資家としては「(企業への)資金提供の判断にESG情報が重要だ」との認識を示した。ESG情報は求められる開示のレベルが上がっていくとの見通しを示し、企業がこのレベルに対応していくことの難しさも指摘した。