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老後2000万円問題とは具体的に何なのか?資金不足への対応策とは

記事公開日 2022/11/18 15:00 最終更新日 2022/11/18 19:04 経済・ビジネス コラム・インタビュー 市場用語再点検 金融コラム

【QUICK Money World 辰巳 華世】「老後2000万円問題」——。老後資金の確保に向けた資産運用の記事を読めば必ず出てくるこの言葉。「老後資金、足りないのよね!?」など何となくは知っていて、多くの人が不安を感じているかと思います。では、具体的に何が足りないか説明することはできますか? 今回は、気になる「老後2000万円問題」について、具体的に何なのか?について説明するとともに、これから老後を迎える私たちはどうするべきなのか?について紹介します。

老後2000万円問題とは何か

老後2000万円問題とは、2019年に金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」が公表した報告書をきっかけに広がった話です。当時から、新聞や雑誌、テレビのワイドショーなど多くのマスコミがこの問題を取り上げ注目され「老後に年金収入だけでは足りなくなり、2000万円が必要となる」という印象を世間に与えました。

この印象は、ある意味では、正しい部分もありますが、間違っている部分もあります。これから老後を迎える私たちは、この2000万円問題を正しく理解し準備をする必要があります。

 

なぜ「2000万円」なのか

この2000万円という数字を正しく理解するために、この数字がどこから来ているのかを確認してみましょう。

先程紹介した金融庁からの報告書で「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では 毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ20~30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1,300万円~2,000万円になる」とあり、ここから老後2000万円問題の話が持ち上がりました。

資料によると、高齢夫婦無職世帯の実収入は、平均毎月20万9,198円に対し、実支出が平均毎月26万3,718円。平均の毎月赤字額が5万4,520円となるため、毎月の不足額の平均が約5万円と算出されています。

この数字だけを見て、「年金だけでは、暮らせないじゃないか!」と不安になるのはやや早計です。もう少し詳しくこの内訳を見てみましょう。

高齢夫婦無職世帯の収入・支出

高齢夫婦無職世帯の収入・支出金融審議会配布資料(厚生労働省)から抜粋

上の表をよく見てみましょう。年金など社会保障給付が約19万円となっています。下の支出部分を見ると、食費、住居、光熱費、被服費、保健医療、交通通信費など生活に必要な基本的な部分は社会保障給付の範囲で収まっています。

では、約5万円の不足は何なのか?と考えてみると、娯楽費や交際費が考えられます。無職の老後生活となれば、毎日が日曜日。現役時代とは違い自由な時間はたくさんあります。これまで頑張って働いてきた分、老後は、趣味や旅行を自由に楽しみたいと考える人は多いはずです。

老後2000万円問題について、このデータから読み取れることは、社会保障給付で、基本的な生活は何とか過ごせそうということ。でも、趣味や旅行など娯楽を楽しむ余裕はまったくなさそうだということが分かります。

ただ、このデータを見る上で注意しなければならない点がいくつかあります。まず、このデータはあくまで平均値であるということ。人によって年金額や支出額も異なります。自分が必ずしもこの平均に当てはまるわけではないということを知っておく必要があります。

さらに、このデータは2017年の総務省家計調査の数字を元にしているということです。現役世代の私たちが老後を迎えるのは、人によりますが10年から40年先とだいぶ先になります。年金給付額が減少する可能性や、足元ですでに感じている方も多いと思いますが物価の高騰など、この先の経済環境は大きく変わる可能性があります。

これから老後を迎える私たちの環境は大きく変化しています。2017年ベースのデータだと平均的な社会保障給付だけでも生きていくための基本的な生活は何とかできそうですが、私たちが老後を迎える時代にそれができるかどうかは分かりません。時代は変わりもっと厳しい現実が待っている可能性もあります。

そういった意味で、老後2000万円問題は、2000万円という数字のインパクトもさることながら、現役世代の私たちに老後のお金についてもっと真剣に考え自分で準備をする必要があると警鐘を鳴らしていると言えます。

老後2000万円問題の背景

老後2000万円問題が大きく注目されたのにはいくつか理由があります。

退職金の減少

老後資金に退職金を当てにしている人は多いと思います。かつては、退職金と年金が老後資金の柱でした。ただ、最近の傾向として退職金が減っていたり、そもそも退職金がない企業や働き方をしている人も増えています。

先程の資料によると、「退職金制度がある企業の全体の割合は徐々に低下し2018年で全体の約80%」となっています。また、「定年退職者の退職給付額を見ると、平均で 1,700 万円~2,000 万円程度となっており、ピーク時から約3~4割程度減少」しています。老後の資金を退職金に頼ることが難しくなっています。

年金に対する不安

先程の資料にあった社会補償給付の約19万円は平均額です。厚生年金に加入していない自営業の人などは、年金収入額がこれより少ない可能性もあります。

また、年金の所得代替率(現役世代の手取り収入と比べた年金額の割合)の低下や年金支給開始年齢の引き上げなど将来の年金に対する不安が高まっていることも老後2000万円問題を意識する一因です。

平均寿命の伸長

平均寿命が伸びていることも背景にあります。「人生100年時代」というように平均寿命が伸びており、その分、老後の期間が長くなっています。そのため、生活に必要な資金も多くなってしまいます。長生きリスクに備える必要があります。

老後の資金が足りなくなるケース

ここでは老後資金が足りなくなるケースを考えてみましょう。

退職金が受け取れない人

老後資金に退職金を当てにしている人が多いかもしれません。しかし、先程説明した様に、年々退職金を取り巻く環境は悪化しており、見込んでいる退職金を受け取れるかどうかは分かりません。仮に退職金がまったくない場合は資金が大きく不足する可能性が高いです。

年金受給額が少ない人

退職金と同じく、年金を当てにしている場合も、受給額が少なければ資金不足に陥ります。先程の数字はあくまで平均です。自分に当てはまるかは分かりません。また、将来においてこの額が保証されているわけでもありません。

支出が多い人

支出が多い人は老後資金が不足する可能性があります。2000万円という数字はあくまで2017年の段階の平均値です。平均よりも支出が多ければ、その分不足する額も大きくなります。

介護施設を利用する人

さらに注意しなければならないポイントとして、老後2000万円問題の2000万円には、有料老人ホームなどの施設に入る額は含まれていません。有料老人ホームなどに入居する場合には、更に支出がかかります。

 

必要なお金をシミュレーションする

老後2000万円問題で大事なことは、この問題をきっかけに自分の状況をしっかりと把握し準備をすることです。

老後の収入見込みを計算

老後にどれくらいの収入が見込めるかを計算します。公的年金は、私たちの老後を生涯にわたって支えてくれる大切な収入源です。日本年金機構の「ねんきんネット」のページを見ると自身の年金の記録や年金見込み額を確認できます。

また、勤務先からの退職金や厚生年金など将来的な収入見込みや、定年後の再雇用があるのかないのか、どれくらいの収入が見込めるかなども確認しましょう。この他、株式や投資信託など資産運用による収入や不動産賃貸収入などが見込めるかなども見てみましょう。

老後の支出見込みを計算

老後の支出の見込みを計算してみましょう。食費、家賃(住居費)、光熱費、家具・家事用品、被服、医療費、教育費、娯楽費、その他支出を軸に計算します。例えば、持ち家の場合には老後の段階でローンの返済が終わっているかどうかは重要なポイントになります。

また、この計算にはある程度のインフレ率も考慮に入れる必要があります。足元ですでに感じ始めている物価高ですが、この先インフレが進行する可能性が高まっています。そういった点も含めて必要な額を想定していくことが大切になります。

収入と支出の差分を計算

自分が将来見込める収入と支出見込みをそれぞれ出します。その差分を計算し、いくら不足するのかを確認しましょう。

不足分を賄うための金額を計算

毎月の不足分を計算した上で、1年に必要になる不足額を把握します。そこから20年、30年と「人生100年時代」の残りの時間を掛けて必要額を出してみましょう。

老後2000万円問題に対応する老後資金の作り方

ここからは具体的な老後資金作りについて紹介します。

ライフプランニングを行う

ライフプランニングをしましょう。人生、必ずしも予定通りにはいかないこともあるかもしれませんが、ある程度、こういう資金が必要になると金額を把握しておくことは大切です。

時期は多少前後する可能性はあるかもしれませんが、キャッシュフローを明確化することで、計画的にお金を使えるようにしていきます。

資金の不安がないように、準備をしたり、やり繰りすることが重要になります。

給与所得以外の収入を得る

収入を増やすことが大切です。給与所得を増やすことも大切ですが、今は副業などを解禁している企業も多く、副収入を確保できる機会が増えています。株式などによる資産運用収益、不動産投資、副業など、給与以外の収入を得るようにしていきましょう。

積立投資を活用する

公的年金だけでなく、自分で老後資金の準備をすることは絶対です。老後資金の準備には、イデコ(iDeCo、個人型確定拠出年金)、少額非課税投資(NISA)の非課税投資枠を使った積立投資を積極的に活用しましょう。

<関連記事>

まとめ

「老後2000万円問題」は、2019年に金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」が公表した報告書をきっかけに広がった話です。2000万円という数字だけが注目されがちですが、この問題はこの先老後を迎える私たちに老後資金について真剣に考えるべきだと警鐘をならしています。まずは、自分の現状と将来見込みを把握することが大切です。そこから将来に向けた準備をする必要があります。

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著者名

QUICK Money World 辰巳 華世

2003年にQUICKに入社後、15年間勤務。約5年にわたり日本経済新聞社、日経QUICKニュース社(NQN)にて記者職に就く。QUICK退社後、フリーランスライターとして2020年より「QUICK Money World」に寄稿。


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