【NQN香港=瀬崎真知子】香港でESG(環境・社会・企業統治)投資への機運が再び高まっている。約3年にわたる新型コロナウイルス禍や、ロシアによるウクライナ侵攻などで一時停滞したが、香港の金融当局はその間も、ESG関連のルール整備を着々と進めてきた。市場では関連投資の拡大を期待する声が多い。
■積極開示、実を取る手段に
香港取引所(HKEX)では既に上場企業に対し、業績などの財務情報だけでなく、非財務情報とされるESGに関する報告書の開示を義務付けている。情報開示ルールは今後より厳格化する見通し。2025年をめどに、世界の金融当局からなる金融安定理事会(FSB)が主導する気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に呼応した関連情報の開示を義務付ける予定だ。
「香港の一部投資家の投資熱は非常に高い」。UBSの胡炳熙アジア太平洋地域・サスティナビリティー投資研究主管は、現状についてこう語る。香港の金融当局は過去2~3年、特に気候変動関連を重視してルールの見直しを進めているとし「グリーンウォッシング(見せかけの環境対策)」を避けるため、世界の潮流に合わせESGファンドの定義や標準化などを急いでいると説明した。
香港の商業印刷会社、精雅財経資訊の袁文詩・最高執行責任者(COO)は「顧客はESG情報の開示に積極的になっている」と話す。同社は香港上場企業向けの財務書類やESG報告書の作成支援サービスを手掛ける。顧客の7割が中国本土企業といい、本土との往来正常化による需要拡大に期待を寄せた。
調査会社グローバルESGモニターは22年末、香港ハンセン指数構成銘柄のESG透明度ランキングを初めて公表した。同社によると、中国ネットサービスの騰訊控股(テンセント)、中国スポーツ用品の安踏体育用品、香港の恒生銀行の3社が最も透明度が高いという。
■見据えるのは「サステナ情報開示」
香港では、香港金融管理局(HKMA、中央銀行に相当)も21年にグリーンファイナンス支援スキームを導入した。企業の環境債発行を後押しするのが狙いだ。香港取引所は22年に民間のカーボンクレジット(排出量)を取引する市場「コア・クライメート」も創設している。
23年は、6月にも公表される、気候変動情報に関する国際的開示基準を策定する国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の結果が注目だ。香港金融当局もこれに対応し、より厳格化した開示ルールを導入するとみられている。
デロイト香港のパートナー(クライメート・サステナビリティリード)、モヒート・グローバー氏は「HKMA、香港証券先物委員会(SFC)、HKEXの3者は今、将来の要求(基準)について組織を越えて話し合いを行っている」と明かした。同氏は「香港ではISSBやTCFDへの適応を前提として議論が進んでいる」とも語った。
「長期的には情報開示はより統一的かつ標準化が進み、投資家もこれらの情報を通じて、投資への影響を理解するようになる」(UBSの胡氏)見通しだ。
一方、足元では投資熱に対して関連人材の不足が深刻化しているという。地政学リスクも懸念材料だが、米中は対立していても気候変動対策では見解が一致しているなどの見方から「地政学リスクではESG投資意欲は損なわれない」といった声も聞かれた。