岸田政権が掲げる「資産運用立国」。家計に滞留する資金がリスクマネーとして資本市場に供給され、経済の持続的な成長を生み出すことによって、果実が広く及ぶ好循環を目指すのがその姿だ。そのために最も必要な改革の「本丸」はどこかについて、11日に発表された9月のQUICK月次調査<株式>で、市場関係者に見方を聞いた。あわせて、米国を中心に逆風が強まっている「ESG(環境・社会・企業統治)投資」について、評価と今後の見通しを質問した。
資産運用立国を目指すにあたり、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」では「資産運用業等の抜本的な改革」が打ち出された。投資家、上場企業、運用会社などが連なるインベストメントチェーンを見渡せば、それぞれに課題がある。必要な改革として「最も重視すべき施策」を聞いたところ、「上場会社の価値創造力の強化」との回答が全体で最も多い40%に達した。まず何より上場企業が中長期に魅力ある投資対象であることが日本で望まれるということだ。インベストメントチェーンを動かす動力源は上場企業にほかならないといっていい。
ほかに多かったのが、「資産運用会社のガバナンス改革」(29%)、「金融グループ内での資産運用会社の位置付け見直し」(25%)だ。どちらも資産運用会社のガバナンスに関わることで改革を求める回答といえる。日本の資産運用会社は証券系や銀行系の金融グループが圧倒的に多く、その力関係から「販売主導」への批判はずっと続いてきた。そうではなく、本当の意味で個人など最終投資家に向いた運用会社になれるかが問われている。
一方で「学生および社会人向けの金融経済教育の推進」が29%で上位に入った。幅広い金融リテラシーの向上が重い課題だとする認識の強さがうかがえる。「東証市場再編およびTOPIX改革の更なる推進」も23%と多く、市場改革もまだ十分ではないとの声の多さが目を引いた。
次に聞いたのは、投資信託における運用会社と販売会社の関係を適正化するためには何が必要かという質問だ。突出して多かったのが、「運用会社の販売会社からの資本的独立」(39%)という回答だった。資本構造からメスを入れて販売会社から完全に切り離すことが最も大切だとの見方だ。同様に、販売側の方が運用側よりも取り分が多い「投信手数料の抜本的見直し」(16%)を選ぶ回答の多さも目立った。
見逃せないのが、「ファンド評価と販売会社評価の適正化」が17%と多かったことだろう。第三者の目から運用成績を評価できているのか、評価会社の手法は信頼に足るものかという問いかけにつながるものだといえる。適正な競争を促す環境づくりが日本は欠かせない。
「ESG投資」について聞いた調査結果でも、興味深いものがあった。ESG投資のリード役だった米ブラックロックのラリー・フィンク会長が「ESGという言葉は使わない」と発言して話題になっている。市場関係者はこうした逆風をどう見ているのか。最も多かったのが「ESG投資の効果をはかること自体が困難であり、限界がみえてきた」との回答で、全体の31%が選んだ。次いで、「本来どの企業も目指すべきことで取り立てて言う必要はなかった」(21%)が多かった。「ESGは企業経営にとって重要なものであり、消えることはない」も18%と一定の支持を集めていた。
そうした認識を踏まえ、日本でのESG投資は今後どうなっていくだろうか。最も多かったのは「E、S、Gを分けて考えるようになる」の39%だ。E・S・Gを3つ合わせるのではなく、ソーシャルならソーシャルでよりフォーカスを当てる方向に変わるとの見立てが多かった。次いで「今の関心状況が継続する」が28%、また「関心は徐々に落ちていく」という回答も22%と多かった。かつてのESGの大合唱から、間違いなく曲がり角に来ている。しっかり実効性を上げられる投資なのかが改めて見られているといえそうだ。
【ペンネーム:生豆】
調査は9月5日~9月7日にかけて実施し、株式市場関係者133人が回答した。
QUICK月次調査は、株式・債券・外国為替の各市場参加者を対象としたアンケート調査です。1994年の株式調査の開始以来、30年近くにわたって毎月調査を実施しています。ご関心のある方はこちらからお問い合わせください。>>QUICKコーポレートサイトへ