【QUICK Money World 荒木 朋】中国の景気減速懸念が続いています。大きな要因とされるのが長引く不動産市場の低迷です。中国では不動産セクターの国内総生産(GDP)に占める割合が大きく、関連産業を含めた中国経済への影響は小さくありません。中国不動産市場の悪化でバブル崩壊を懸念する声もあります。本記事では、深刻化する中国不動産問題について、その実態や背景、今後の見通し、マーケットへの影響、さらには過去のバブルとの比較について分かりやすく解説していきます。
■中国の不動産問題とは?
中国の不動産問題とは、中国の不動産市場の崩壊が懸念されている問題のことです。問題のきっかけとなったのが、中国政府が2020年8月に決定し、翌年1月に実施した不動産融資規制「三道紅線(3つのレッドライン)」です。3つのレッドラインとは、中国の大手不動産企業に対し、負債比率など守るべき3つの財務指針を定めたもので、その中身は①総資産に対する負債の比率が70%以下、②自己資本に対する負債比率が100%以下、③短期負債を上回る現金を保有していること――の3つ。この財務指針に抵触する不動産企業には銀行融資を規制するもので、過剰な不動産投資を抑制しようとする対策でした。
そもそも、不動産融資規制を導入するきっかけとなったのが、新型コロナウイルス対応における大規模金融緩和により溢れ出た投資マネーが不動産市場に大量に流入したことでした。余剰資金の流入でマンション価格の高騰が進み、更なる値上がりを見込んだ投資も加速するなどして一部の大都市ではバブル現象が起こる事態になりました。経済格差拡大で市民の不満も募るなか、中国政府は行き過ぎた不動産投資を抑制する対策に出たというわけです。
この規制を受け、総負債比率などの基準に抵触した企業に融資制限がかかり、多くの不動産企業が債務不履行(デフォルト)に陥りました。このうち、金融市場に最も大きなインパクトを与えたのが、中国を代表する不動産開発企業である恒大集団(エバーグランデ)の経営危機でした。同社はデフォルトに陥り、2023年8月17日には米連邦破産法の適用を申請するに至りました。
中国恒大集団は不動産事業のほか、観光やネットサービス、保険、電気自動車(EV)など事業の多角化を進めていました。中国不動産大手の経営危機は不動産以外のセクターにも悪影響が波及する形となり、中国景気を下押しするとの懸念が強まったのです。
中国の不動産融資規制でもう1つ表面化したのが、業者が建設を途中であきらめた未完成の住宅問題です。中国では新築マンションの購入に際し、多くの購入者がマンション竣工前に購入契約を済ませ、入居前から住宅ローンの返済を始めるケースが一般的とされています。
中国政府による不動産融資規制で、不動産企業は資金不足に陥り、その影響で建設工事が遅延したり、中断したりするケースが増えました。その結果、物件の引き渡しはされずに住宅ローンの支払いだけを強いられる住宅購入者が相次ぎました。こうした問題に対し、建設工事の止まった未完成物件の購入者の中で住宅ローンの返済を拒否する動きが広がってきたのです。返済拒否の広がりが続けば住宅ローンが焦げ付き、これらが不良債権化するとのリスクが懸念される事態になっています。
2023年には中国不動産最大手の碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)の資金繰り悪化が表面化するなど、中国不動産市場を巡る先行き不安は一段と強まりました。中国恒大集団と碧桂園控股が公表した最新の2023年1~6月期決算によると、恒大集団は最終損益が330億元(約6600億円)の赤字になり、碧桂園は489億元(約9800億円)の赤字と過去最大の赤字を記録しました。2023年6月末時点の負債総額は恒大集団が2兆3882億元(約48兆円)、碧桂園が1兆3642億元(約27兆円)に上りました。
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■中国不動産バブルは崩壊したのか? 金融市場への影響は?
今回の中国の不動産問題は今後どのような展開をみせていくのでしょうか。一部専門家の間では、中国不動産バブルが崩壊し、2008年に起きたリーマンショック級の悪影響を世界経済に及ぼすのではと指摘する声もあります。一方、中央集権的政治体制にある中国政府が市場メカニズムにあらゆる形で介入することで、日本がかつて経験したようなバブル崩壊が起きる可能性は低いとの声もあります。
実際、不動産市場の悪化を重く受け止めた中国政府はさまざまな対策に動いています。コロナ禍を経て中国政府はバブル抑制を目的に不動産規制を強化してきましたが、2022年に入ると不動産市場に対する包括的な金融支援策を行うなど規制緩和へと舵を切りました。大手不動産企業に対して定めた財務指針「3つのレッドライン」に関して負債比率基準などの緩和に動いたほか、住宅ローン規制の緩和や地方政府による住宅ローン優遇や補助金支給などの需要喚起策が実施されています。また、金融政策では政策金利の引き下げを進めています。こうした対策が不動産危機を和らげるとの期待も出てきています。
もっとも、中国景気の先行き不安は根強いままです。中国国家統計局が公表する製造業購買担当者景気指数(PMI)は2023年8月まで5カ月連続で好調・不調の境目である50を下回りました。9月は50を上回りましたが10月は再び50を下回り、当局による政策の景気下支えの効果ははっきりしません。日本は中国向けの輸出額が大きな割合を占めていることもあり、中国景気の悪化は日本経済に悪影響を及ぼすことが警戒されます。中国で積極的に事業展開を進めている中国関連銘柄とされる日本企業も多いだけに、中国景気の動向は今後も日本の企業業績の不透明要因として警戒される可能性が高いでしょう。
中国不動産市場の低迷により同国の富裕層の景況感が悪化すれば、中国人投資家による日本の不動産購入意欲の減退につながる恐れもあります。また、中国国内の景気の悪化が続けば、訪日中国人客数の伸びにもマイナスの影響を及ぼすことも否定できません。
いまのところ、中国政府の政策対応により不動産バブルの崩壊といった最悪のシナリオを予想する声はまだ少数派であるものの、不動産市場の低迷を契機とした先に取り上げた懸念材料などが顕在化すれば、日本の企業業績に不透明感が強まり、日本の株式市場への下押し圧力になる恐れもあります。今後、ますます中国景気の動向を注視する必要があります。
■中国の不動産問題、過去のバブルと比べてみると…
今回の中国の不動産バブル問題の先行きを的確に予想することは困難ですが、参考資料として、過去の不動産バブルが世界経済にどのような影響を及ぼしたのか整理しておきましょう。ここでは1990年代はじめに起きた日本のバブル崩壊と、2008年に起きたリーマン・ショックを例に挙げてみていきます。
日本のバブル崩壊は、景気抑制を目的とした急激な金融引き締めに加え、当時の大蔵省(現財務省)が金融機関の不動産融資に対して実施した規制(いわゆる総量規制)などが追い打ちとなり、日本の株価や土地価格、不動産価格が急落しました。バブル崩壊により日本経済は大打撃を受け、その後のデフレ経済につながりました。しかし、世界経済への影響はそれほど大きくなかったといいます。理由の1つとしては、日本の不動産バブルは国内マネーが主導し、日本円の流通が国内中心だったことから他国への波及が限られたことがあったとされています。
一方、米国を震源地としたリーマン・ショックは世界経済に多大な影響を及ぼしました。リーマン・ショックとは、米国の低所得者層を対象にした住宅ローンであるサブプライムローン問題を受けて不動産バブルがはじけ、米投資銀行リーマン・ブラザーズが経営破綻したことを契機に連鎖的に大手金融機関が経営危機に陥るなど世界的な金融・経済危機につながったショックです。サブプライムローン関連商品の取引には日本を含む世界の金融機関がかかわったことで、世界的な信用収縮と株価暴落を招く結果となりました。世界一の経済大国である米景気の悪化に加え、基軸通貨であるドルの流通にも影響が出た結果、世界同時不況をもたらしたのです。
中国政府は日本のバブルを研究するなど過去のバブル崩壊を教訓に政策対応を進めているとの指摘もありますが、中国の不動産問題を果たしてソフトランディングさせることはできるのでしょうか。バブル抑制を目的に行なった厳しい不動産融資規制は、景気悪化への配慮からここにきて緩和方向に転換するなど、政策のかじ取りは一段と困難を極めている印象もあります。不動産政策の緩和は、中国経済の課題となっている債務問題の解決を先送りすることにつながりかねない面もあります。
香港証券取引所は2023年9月28日、経営再建中の中国恒大集団の株式取引を停止したと発表。10月3日から売買は再開しましたが株価は低位での推移を続けています。経営危機が表面化してから2年が経ちますが、いまだに不安はくすぶり、債務再編計画を巡る懸念は高まったままです。
過去の類例をみると2008年のリーマン・ショックには伏線がありました。2007年に仏大手銀BNPパリバがサブプライム関連など高リスク商品を組み込んだファンドの解約を突如停止し、市場の大混乱を招くことになった「パリバ・ショック」といわれる危機です。当時の米国株は一時急落したものの、その後はやや落ち着きを取り戻していた経緯があります。しかし、サブプライムという同じ問題で1年後にリーマン・ショックという「本震」が起こったのです。中国の不動産問題も不安はくすぶり続けており、中国不動産バブルの影響が今後、中国景気や世界景気にジワリと現れてくるかもしれないことには引き続き警戒しておく必要があるでしょう。
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