住宅を購入して富の基盤をつくる。確定拠出型年金でコツコツ投資。余裕資金の多くも株式などに投資する。豊かさをめざすいわゆるアメリカンドリームだが、価格高騰で夢は砕かれた。米ネット不動産仲介のレッドフィンによると、全米の住宅の8.5%の価格が100万ドル(約1億4800万円)を超えた。パンデミック(疾病の世界的流行)前の4%から倍増。サンフランシスコとサンノゼの100万ドル超え比率は80%に達した。生活に欠かせない住居費、食料品、医療費、子育て費用の高騰で、家計債務は過去最多を更新。余裕資金はない。「アメリカンドリームは死んだ」との報道は少なくない。米国で暮らす中、日常会話で選挙より価格高騰の話題が明らかに多い。
米大統領選の3大争点は、インフレ、移民、人工妊娠中絶。特にインフレ対策が最重要であることが幅広い世論調査で示されている。民主党候補のハリス氏と共和党候補のトランプ氏はそれぞれインフレ対応策を打ち出したが、アプローチの違いは鮮明だった。ハリス氏が打ち出したのは物価安定と中間層支援。就任100日で食品業界の便乗値上げを禁止、任期4年間で300万戸の住宅建設を目指すと同時に初めて住宅を購入する世帯の税優遇、児童・低所得者層の税控除、医療費支援の4つの柱からなる。メディアの評価は厳しい。ワシントン・ポスト紙は、企業の便乗値上げはインフレ要因ではないと社説で指摘。トランプ氏は価格統制と批判した。
ハリス氏と同様にトランプ氏も「バーゲンセール」を表明した。法人減税に加え、社会保障給付に対する課税の撤廃を表明。レストランなどで働く人のチップ収入に課税しないユニークな案も打ち出した。貿易政策やエネルギー政策に触れなかったハリス氏と対照的に、トランプ氏は追加関税を通じた企業支援を表明した。こちらも評価は高いといえない。ブルームバーグ通信は、減税や関税引き上げなどが物価上昇圧力をあおると受け止めるエコノミストや投資家は多いと報じた。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、トランプ氏とハリス氏のインフレ対策は方向が違うが、いずれも財政負担が大きいと解説した。CNBCは、シカゴ地区連銀のグールズビー総裁が慎重ながらトランプ氏とハリス氏のインフレに関する主張に疑問を呈したと伝えた。
ワシントン・ポスト紙とABCニュースが調査会社Ipsosと共同で実施した全米の有権者を対象にした最新の世論調査は、ハリス氏支持が49%でトランプ氏の45%をリードした。経済政策に関しては、トランプ氏を信頼していると答えた有権者は46%で、ハリス氏の37%を大きく上回った。ニューヨーク・タイムズ紙がまとめた各社世論調査では、激戦州で両候補の支持率が拮抗していることが示された。予断を許さないといえる。
民主党全国大会がイリノイ州シカゴで19~22日に開催される。ハリス氏の演説により、有権者がアメリカンドリームの可能性を思い描けるかが鍵。大会後はラストベルト(錆びた工業地帯)を含む激戦州をめぐる報道がさらに増え、大統領選と同時に実施される議会選の見通しにも関心が高まりそうだ。ハリス氏は党大会直前に激戦州の中で最も注目度が高いペンシルベニア州を訪問。トランプ氏は前日にペンシルベニア州で選挙集会に参加した。
(このコラムは原則、毎週1回配信します)
福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。