【NQNニューヨーク 横内理恵】米大統領選をにらんで米長期債相場も方向感を探る展開となっている。9月29日の米長期債相場は横ばいとなり、指標である10年債利回りは前日と同じ0.65%で終えた。米株安などを受けて買いが入る場面があったが、29日夜の米大統領選候補による1回目のテレビ討論会を前に様子見ムードが強かった。
■討論会は「選挙後の市場の反応を測る指標」
この日の市場の関心は現職のトランプ米大統領と民主党候補のバイデン前副大統領が初めて公の場で直接議論を戦わせる討論会に集まった。世論調査や選挙資金集めなどではバイデン氏が優位に立つが、内容次第では支持が拮抗する激戦州の趨勢に影響する可能性があるからだ。
コロナ禍で迎える11月3日の米大統領選は郵便投票拡大など様々な要因が及ぼす影響が読めないうえ、世論調査と反対の結果となった前回2016年の苦い記憶もあり、過去に例がないほど予測が難しくなっている。市場では討論会を受けて株などのリスク資産が動けば、「選挙後の市場の反応を測る指標になる」(BMOキャピタル・マーケッツ)との見方があった。「第2回、第3回の討論会も控えており、必ずしも第1回討論会後の基調が続くとはみていない」(シーバート・ウィリアムズ・シャンクのデービッド・コード氏)との声はあるものの、注目度が高いことに変わりはない。
■上がる変動性指数
高まる不透明感から、市場は選挙前後の相場変動に備えている。投資家心理を測る指標で、20を上回ると不安心理が高まった状態とされるS&P500種株価指数の変動性指数(VIX)の29日の終値は26.60。先物は期日が10月に入ると30を超えてくる。最も高いのは選挙後の11月18日が期日の取引で、32台半ばだ。年内は変動率が高まった状況が続くとみられ、30を下回るのは年明け以降が期日の取引からだ。
為替市場でもリスクヘッジ目的の取引が目立つようだ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると大統領選前後に「低リスク通貨」とされる円が円高・円安どちらに振れてもいいように、オプション取引でコール(買う権利)とプット(売る権利)の両方を買い増す傾向がみられるという。
■下がるMOVE指数
対照的に安定するのは米国債だ。債券市場が想定する将来の変動率を示す「MOVE」指数は36台と過去最低水準で推移している。金融市場の混乱を受けて一時的に160を超えた3月や、50を上回っていた昨年末から大幅に低下し、さらに低下基調を強めている。
MOVE指数の動きには金利水準の低さ自体が影響している面はある。とはいえ、選挙結果への不透明感やリスク資産の急変動に備えた米国債需要の高まりを映している可能性は高い。「どちらの候補者が勝っても米連邦準備理事会(FRB)はゼロ金利政策を維持し、積極的な資産購入も続ける」(BMOキャピタル)との見方も背景だ。
16年11月の前回選挙時はVIXが13前後で、MOVEは70を超える水準だった。長期金利は2%台だ。一方、今回はS&P500が歴史的な高値圏で推移し、長期金利は異例の低水準にとどまっている。4年前と投資環境が大きく変化したことも、選挙戦を取り巻く市場心理に影響しそうだ。
<金融用語>
変動性指数(恐怖指数)とは
シカゴ・オプション取引所(CBOE)が、S&P500を対象とするオプション取引のボラティリティを元に算出、公表している指数で英語では「investor fear gauge」、別名Volatility Index(略称:VIX)と呼ばれているもの。 将来の投資家心理を示す数値として利用されており、一般的にVIXの数値が高いほど投資家が相場の先行きに不透明感を持っているとされている。 通常は、10から20の間で推移することが多いが、相場の先行きに大きな不安が生じた時には、この数値が大きく上昇するという傾向がある。